天文学史と長久保赤水

本書は赤水の業績が、極めて長い人類の天文学史や宇宙観の変遷の中で、どういう場所を占めているかを示す良い論考となっている。西洋天文学を理解しつつも、旧来の宇宙観を脱せず苦悩する過渡期の賢者として、しかし学問は庶民のためという念を持ち、地図のみならず、天文学でも「天象管闘鈔」によって一般の人々へ普及させた偉業が見えてくる。赤水の幻の天文学書についても触れており、今後、新たな発見を期待したい。この発刊を大いに喜ぶと同時に、こうした研究が今後も継続され、後世に伝えていってほしいと願う。

赤水の偉業は「赤水図」が広く庶民に愛され続け、約一世紀にわたってのベストセラーとなった庶民のための学問という視点だけではなく、中国地図や世界地図まで残している点で、(日本という国の)自らの立ち位置を明らかにしようとしてきた姿勢が感じられる。

その姿勢は天文学が目指してきたものに他ならないといっても過言ではない。天文学の歴史は、いってみれば宇宙観、翻れば宇宙の中における我々の立ち位置を明らかにしてきた学問といってよい。赤水は、当時、得られる最大限の情報を駆使して、地図を作り上げ、日本の立ち位置を明らかにしょうとした。その姿勢はまさに宇宙観を確立せんとした天文学の数々の先人と同じと言える。(帯:渡部潤一)