「赤水顕彰が活発化」 教科書に地図郷土の宝、全国に発信(2022年12月26日 茨城新聞第1面に掲載)
現在の高萩市出身で、日本地図を作成した江戸時代の学者、長久保赤水(1717~1801年)の顕彰活動や地図を教育に生かす動きが活発化している。功績を伝えてきた長久保赤水顕彰会(同市)は設立から30年。この間には関係資料が国の重要文化財に指定され、地図が教科書に掲載されるなど赤水への注目度が増す。さらなる知名度向上に向け、活動が熱を帯びる。(日立支社・小原瑛平)
伊能より42年早く
赤水は現在の同市赤浜の農家に生まれ、儒学や天文学、地理学などを学んだ。「余技」(趣味)だとして描いた地図は、40歳ごろから20年以上の歳月をかけて作成。1779年には「改正日本輿地路程全図」(赤水図)の初版を完成させた。
天文学を生かし、日本の地図としては初めて経緯線を記載。地図の完成は伊能忠敬より42年早い。赤水図は江戸の庶民に広く使われたと見られている。
会員1000人を目指す
こうした功績を広く伝えようと、同会は1992年11月6日、赤水の誕生日に会員121人でスタートした。会によると、それまでは赤水を顕彰する機運が一時的に高まっても長くは続かなかったという。石平光副会長は「私が子どものころは赤水について教わったことがなかった」と話す。
講演会や展示会、書籍発行といった顕彰活動を展開。赤水の子孫らが保管していた資料の収集なども進めてきた。2012年から会長を務める佐川春久さん(73)はさらに加速させ、一時は88人まで減っていた会員も813人まで増えた。現在は千人を目指して奮闘中だ。
赤水に魅了される点について、顕彰会事務局長の三浦邦明さん(70)は「儒学者でありながら科学的な才能も持っていた」、事務局の佐藤信さん(70)は「情報収集のプロであり、現代にも通じる学びがある」と、赤水の魅力についてそれぞれ語る。
小中高で活用可能
17年に関係資料が県指定文化財に加わったのに続き、20年には国の重要文化財に指定された。その後、中学、高校の教科書や参考書に赤水図が掲載されるなど、知名度は徐々に高まっている。
今年の4月には、地図の研究者らで構成する「日本地図学会」内に赤水の専門部会が設置された。研究の深化に期待が高まるとともに、部会の代表を務める日本大学経済学部の卜部勝彦教授は、赤水図は学校の地理教育に活用されるよう普及を進める方針だ。
卜部教授は今夏、高萩市内3中学校で出張授業を実施。生徒は赤水図を見ながら都府県庁所在地に当たる場所を山や川などの位置をヒントに探した。
11月下旬、市内で授業の報告会を開いた卜部教授は「この学習は地理にも歴史にも使えて、小中高それぞれの場面での使い方がある。全国各地の学校でも普及できないかと考えている」と力を込め、赤水図を「全国に発信できる大きな宝」と評した。
佐川会長は「地図のレプリカが教材として使われるようになり、赤水のことが全国に知られれば、高萩市の町おこしにもつながる」と顕彰の広がりに期待する。